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温井和佳奈

起業前15話: バブルで留学資金を手にし会社を退社、しかし「父」という障害が

バブルの最高値、株価は1989年12月29日に38,915円をつけた。私はその2年近く前に、解約した財形貯蓄の資金150万円で株を購入していた。私は1990年から渡米しようとこの時期に自分が持っていた株を全て売却した。

売却金額は1,000万円を余裕で超えた。よし、これでアメリカに行ける。私は仕事が楽しくなってきていたが、退職を決めた。以前、退職の相談をした時、支店長は「寿退社しか認めない」と言われて受けてもらえなかった。

だから今回は支店長に
「私、結婚します(遠い未来に・・・)」と伝えた。
退職の日、皆さんから「結婚おめでとう!!」と
盛大な拍手と花束をもらい、
私は3年弱お世話になった日興證券を「寿退社」した。

お世話になった福留アナは、
「150万ぽっちは、今いくらになった?」
「1,000万円超えました」
「やったな。頑張れよ」とクールに笑った。

会社も仕事も円満だったが、大きな難関は昭和一桁の父である。
母には3年前から打ち明けていて
「やりたいことに挑戦しなさい」と
父に内緒で準備を手伝ってくれていた。

母と「父対策」で練りに練った計画は、こうだ。
父に最初から留学の話をした場合、反対されるのがオチなので、全てを準備し住む場所まで決めた上で「出発の1ヶ月前に、突然伝える」ということにした。

それも打ち明ける時に口頭だとブン殴られるので、
「メモを渡して、逃げる」という作戦である。

怖すぎる計画だがやるしかない。
そしてアメリカ出発1ヶ月前になった日が作戦実行の日だ。
その日は父が帰る前に腹ごしらえをして、母とまたすり合わせをした。
いよいよ父が帰宅。

「これ、一ヶ月後の私の住所。」とおもむろにメモを渡した。

父はしばらくの沈黙した後、怒鳴った。

「一体どういう意味だ!何考えているんだ!」
父はゆっくり母を見た。
母はゆっくり父から目をそらした。

「おまえたちグルだったんだな!おい!待てっ。」

私は、自分の部屋に向かって駆け出していた。
父が怒りの形相で追いかけてきた。
走ってギリギリ自分の部屋に入りドアを閉める。
鍵をしめた瞬間に父がドアを開けるが、
私が鍵が降ろした方が早かった。

息が荒くなり、心臓がドキドキしていた。

「開けろ!!」ガチャガチャさせながら父がドアを叩く。
さらに心臓の鼓動が激しくなる。そして私はドア越しに叫んだ。

「もう、決めたから!・・・い、行くのっ!絶対に行くからーっ!」

昔から厳格で封建的な父親には逆らえない。
なにせ、私が高校生の時に「週末の門限は5時だ」を通した父である。
許すはずがない。

自分の貯めた資金で、自分の進路を決めた私に何が不満なのか。
どれくらい時間が経っただろうか。もう父もドアを叩くのを辞めて静かになっている。

「本当に行くのなら、親子の縁を切る」

ドアの向こうから、父の立ち去る足音が聞こえた。

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