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温井和佳奈

起業前18話:1人も知り合いがいない地、憧れのアメリカへ

成田空港には、母、兄、会社を休んで「新人類」の友人がきてくれた。そして結婚を約束していた彼も。空港でみんなと涙の別れをして、私は一人、搭乗口へ向かった。手にはTOFELの英単語の本を持って。

行き先は、東海岸、ホワイトハウスのあるワシントンDC。私は環境に流されて遊んでしまうので、日本人が全くいなさそうな田舎か、都心でも真面目な雰囲気の場所を目指そう。間違ってもビーチがそばにあるカルフォルニアとか、ディズニーランドのあるフロリダはダメだ。東海岸でもNYはナイトクラブにファッションに、やはり誘惑に負けてしまうだろう。

東海岸のセーラムとかアトランタの田舎町にいくつかコンタクトしたが、いずれも定員いっぱいだという。それならば大統領がいる街なら真面目な人が多いんじゃないかと、ない頭で考えて、私はワシントンDCの語学学校を選んだ。

飛行機に乗ると「希望」よりも不安と焦りが出てきた。TOFELの本を3冊、座席の前の網に入れた。まず、1冊目の英単語の本を見ては閉じ、次は文法の本を取り出しては閉じ、更に読解の本を取り出しては閉じた。ダメだ、何一つわからない。

こんな状態でアメリカに行っていいのか?生活できるのか?日本で英語をもっともっとやるべきだったと、大きなため息をついた。

私のこの怪奇な行動を、じっと横で見ている人がいた。

「すごいですね。勉強頑張ってるって感じ」ニコッと笑う。

私は恥ずかしくなって、「あっ、違うんです。留学しにきたのに、英語の勉強しないうちに出発日になってしまって、今になって焦っているんです」

彼女は、メリーランド州立大学の学生だった。アメリカの大学に言っているというだけで、彼女が特別な人に見えた。途中の飛行機乗り換えは、彼女がいなかったらできなかっただろう。ワシントンDCに飛行機が着陸した時は、すでに夜の11:30を回っていた。

飛行機から出て、見慣れない真っ暗な景色に押しつぶされそうだった。

真夜中の黒い闇に、ぼんやりとしたオレンジ色のライトに照らされたワシントンDCの空港が、かげろうのように揺れている。最終便が大幅に遅れて最後に出てきた私は、ひとりぼっちで呆然と立ちすくんでいた。すべてが日本とは違って見える。飛行機の飛び立つ音さえも、アメリカの音だ。1990年、冬のことである。

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